不動産の取引

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不動産の取引と宅地建物取引業

私たちが不動産を買いたい・売りたいと思ったら、普通は不動産屋に行くでしょう。一般人には不動産の情報は手に入れづらく、取引相手を自分で見つけてくるのは大変だからです。

ただ、不動産について素人である私たちと不動産のプロである不動産屋であれば、私たちは不利ですね。不当に高い値段で買わされたり、重要なことを説明されなかったりするかもしれません。

そこで、不動産が公正に取引されるよう、宅地建物取引業法 などの法律で取引を規制して、一般人を守っています。不動産取引を扱う宅地建物取引業者に対して、不動産に関する専門知識を持つ宅地建物取引士の設置を義務付け、重要事項説明の義務を課すことで、知識の乏しい一般人が損害を被ることを防止しています。

宅地建物取引士

宅地建物取引業法では、宅地建物取引業(宅建業) とは、

  • 自らが行う土地・建物の売買や交換
  • 他人の土地・建物の売買・交換・貸借の代理や媒介

を、不特定多数に反復継続して行うこと、と定義しています。「媒介」は「仲介」とも言いますが、第三者の契約を成立させることを言います。

上の業務の中には、「自らが行う土地・建物の貸借」は含まれていません。自分の持っているマンションを貸すこと(いわゆる、大家さん)は、宅地建物取引業の免許は不要です。

宅地建物取引業を行うためには、法律によって国土交通大臣、または、都道府県知事の宅地建物取引業免許が必要です。また、5人に1人の割合で、不動産の取引に関して専門的な知識を持っている「宅地建物取引士」の設置が義務付けられています。

宅地建物取引士

宅地建物取引士は、以前は、「宅地建物取引主任者」と呼ばれていました。2015年4月から「宅地建物取引士」に変更となっています。

宅地建物取引士は、通常、宅建士と呼ばれます。宅建士は、以下の3つの独占業務があります。

  • 重要事項説明
  • 重要事項説明書面への記名押印
  • 契約書への記名押印

重要事項説明

重要事項説明 とは、物件や取引に関する重要事項をまとめた「重要事項説明書」を消費者に説明すること です。

この説明をできるのは、宅建士だけです。宅建士は、「宅地建物取引士証」を提示したうえで、契約の締結前に重要事項説明書を交付して説明します。

契約に関して「そんなことは聞いてない」「いや、説明した」という、「言った言わない」の論争にならないために、重要事項説明があります。

重要事項説明を済ませると、「説明をした、説明を聞いた」という意味で、説明した宅建士と説明を受けた消費者は、重要事項説明書に記名・押印をします。

媒介契約

不動産の取引において、宅地建物取引業者に媒介を依頼するときには、媒介契約を結ぶ必要があります。媒介契約を結んだら、宅地建物取引業者は媒介契約書を作成し、記名押印をして依頼者に交付しなければいけません。

媒介契約には、次の3種類があります。

  • 一般媒介契約
    • 複数の業者に依頼が可能で、自分で取引相手を見つけることも可能
    • 契約期間は自由
    • 依頼者への報告義務は無し
  • 専任媒介契約
    • 複数の業者には依頼できない。自分で取引相手を見つけることは可能
    • 契約期間は3か月以内
    • 依頼者への報告義務は2週間に1回以上
  • 専属専任媒介契約
    • 複数の業者には依頼できない。自分で取引相手を見つけることもできない
    • 契約期間は3か月以内
    • 依頼者への報告義務は1週間に1回以上

「専任」とつくと、1つの業者だけにしか依頼できません。仮に契約期間を3か月以上にしても、契約の有効期間は3か月になります。

また、「専属」とつくと、取引相手を自分で見つけることができません。


媒介によって宅地建物取引業者が受け取れる報酬には、限度額が定められています。例えば、貸借取引であれば、貸主、借主の双方から受け取ることができる金額の合計は、家賃1ヶ月分と消費税が上限となっています。

不動産の売買契約

不動産は、移動することが難しいこと、売買金額が大きいことなどから、他の取引とは異なるルールが存在します。

売買代金の額と内訳

一戸建てやマンションを購入する場合、土地と建物を合わせた代金を考えることが多いでしょう。

合計金額が同じなら、どんな比率でも同じだと考えるかもしれませんが、税金の面での扱いが異なってくることに注意が必要です。

消費税の点で考えると、土地には消費税はかかりません。しかし、建物は、課税事業者が売り主の場合には消費税がかかります。課税事業者が売り主となるのは、新築の場合が多いです。なお、個人間での売買(中古物件の売買に多い)には、消費税はかかりません。

一方、減価償却の点で考えると、土地は減価償却できませんが、建物は減価償却できます。不動産を購入して他人に貸したいと思っている人(不動産所得を得たい人)にとっては、建物価格の比率が高い方がいいかもしれません。

故意に実体と異なる比率にしても契約書の価格が認められないこともありますが、土地と建物の税金の扱いは知っておいた方がいいでしょう。

手付金

不動産の売買契約を行った際、通常、契約を履行する前に買主から売主へ、売買代金の一部を支払います。このお金のことを、手付金といいます。

「契約を履行する」とは、売主が物件の引き渡しを行うこと、買主が代金の支払いを行うことです。

契約を履行する前であれば、買主は手付金を放棄することで契約を解除することができます。「買う契約はしたけど、さらにいい物件を見つけたので、解除したい」場合などです。

また、売主が解除することもできます。契約を履行する前であれば、売主が手付金の2倍の額を買主に払うことで、契約を解除できます。「売る契約はしたけど、もっと高く買ってくれる人を見つけたので、契約を解除したい」場合などです。

どちらの場合も、契約の履行に着手した後は、解除はできません。

また、手付金は、重要事項説明書にも書いています。売主が宅建業者で、買主が宅建業者以外の場合、手付金は売買代金の20%が上限となっています。

公簿取引と実測取引

土地の取引では、公簿取引と実測取引があります。

公簿取引 は、登記記録に記載されている面積を使って行う取引です。実測取引は、実測面積を使って行う取引です。

実測面積を今すぐ測るのが難しい場合、まずは登記上の面積で契約しておいて、あとで実測して差異があるとわかったら、事前に合意していた方法で売買代金を増減精算する方法もあります。このような取引も実測取引です。

危険負担

不動産の売買契約を行っても、引渡しがすぐに行われるわけではありません。通常、売買契約の後は、住宅ローンの手続き、ローン実行、代金支払いを経て、引渡しとなります。そのため、契約から引渡しまで、しばらく時間がかかるのが一般的です。

契約から引き渡しまでの間に、地震などによって建物が壊れてしまったとき、どちらが損害を負担するかという問題のことを、危険負担 といいます。

特に契約で定めていなければ、民法で定められたルールが適用されます。現在の民法では、物件の引渡し前なら、売主に責任がなくても、買主は契約を解除できることとなっています。なお、物件の引渡し以降は、地震などで建物が壊れたら、買主の責任となります。

以前の民法では

危険負担を売主が負うようになったのは、2020年4月の民法改正時からです。

これ以前は、買主が負うようになっていました。しかし、契約の特例で売主が負うようになっていたケースもあり、買主側が保護されていることも多々ありました。

契約不適合責任

不動産の売買をしたとき、実際の不動産が契約の内容と異なっているかもしれません。例えば、契約書に書いていたよりも面積が小さかったり、建物の品質が悪かったりするかもしれません。

このような場合、買主は売主に対して、追完請求(建物に不具合があった場合に、補修請求をすること)、代金減額の請求、損害賠償の請求、契約の解除などを行うことができます。これを、売主の 契約不適合責任 といいます。

買主が売主に対して、契約不適合責任を追及するには、期間の制限があります。

買主は、契約不適合を知ったときから、1年以内に売主への不適合を通知しなければいけません。この段階では、請求までしなくてもかまいません。

請求は、不適合を知ってから5年以内で、引渡しから10年以内に行う必要があります。これを過ぎると、買主の権利は時効によって失われます。

民法改正前の契約不適合責任

2020年の民法改正前は、契約不適合責任は、瑕疵(かし)担保責任と呼ばれていました。瑕疵とは、ざっくり言えば、欠陥のことです。

瑕疵が見つかったとき、以前は、買主は、損害賠償請求と契約の解除を行うことしかできませんでした。改正後の民法では、これに追完請求と代金減額の請求が加わっています。

また、改正前は、瑕疵を知ってから1年以内に請求をする必要がありましたが、改正後は通知だけでよく、請求は1年以内でなくても大丈夫となりました。

不動産の賃貸契約

生きていくには住むところが必要ですが、中には家を購入せず、賃貸で暮らしていく人もいるでしょう。また、購入したものの、転勤することになり、誰かに貸し出す人もいるかもしれません。ここからは、賃貸契約について見ていきます。

借地権

借地権とは、自分の建物を建てるために、他人から借りた土地を使う権利のことです。

借地権は、契約の更新がある普通借地権と契約の更新がない定期借地権に分かれます。

普通借地権

普通借地権は、土地の所有者に正当な事由がない限り、借地人(借りている人)が望めば、契約が更新される借地権のことです。このような契約を、普通借地契約といいます。

契約期間は通常30年です。30年以上で契約すると、その期間になります。一方、期間を定めなかったり、30年より短い期間で決めていても、30年になります。なお、必ずしも契約を書面で行う必要はありません。

建物の用途に制限はありません。期間の満了時に建物があれば、同一条件で更新されます(建物がなければ更新されません)。更新時の契約期間は、更新1回目は20年以上、2回目以降は10年以上の単位で行います。

借地人(借りている人)が契約を更新しない場合、土地の所有者に、建物の買取を請求する権利(建物買取請求権)があります。逆に、土地の所有者が契約の更新をしたくない場合は、正当な理由が必要となります。


借地人は、借地上に建てた建物を登記すると、第三者に対して借地権を主張できるようになります。

例えば、Aさんから借りた土地に家を建てていたとしましょう。Aさんが亡くなり、土地がAさんの子どもであるBさんに相続されたとします。このとき、Bさんから「この土地を他の人に売るから、この建物を壊してほしい」といわれたとしましょう。

このとき、もし建てていた家を登記していれば、Bさんからの依頼に応じる必要はありません。一方、登記していなければ、契約が終了したときに土地を返還しなくてはいけません。

定期借地権

定期借地権 とは、定めた契約期間で借地契約が終了し、契約の更新がない借地権のことです。このような契約を、定期借地契約といいます。

定期借地契約を結んだ場合は、期間の終了時には必ず借地人は土地の所有者に土地を返還しないといけません。借地人が契約更新を希望しても、契約は更新しません。

定期借地権は、さらに3つに分かれます。

1つ目は、一般定期借地権 です。契約期間は50年以上で、公正証書などの書面で契約します。書面で契約しなかった場合は、普通借地権となります。利用目的に制限はありません。契約が終わるときには、借地人は土地を更地にして返す必要があります。

2つ目は、建物譲渡特約付借地権 です。契約期間は30年以上です。契約の定めはなく(書面でなくてもよい)、利用目的に制限もありません。契約が終わると、借地人は建物を地主に有償で譲渡し、借地権が消滅します。

3つ目は、事業用定期借地権 です。契約期間は10年以上50年未満で、必ず公正証書で契約しなくてはいけません。利用目的は事業用に限られます。契約が終わるときには、借地人は土地を更地にして返す必要があります。

借家権

借家権 とは、他人の建物を借りる権利のことです。

借家権も、契約の更新がある普通借家権と契約の更新がない定期借家権に分かれます。

普通借家権

普通借家権 とは、家主に正当な事由がない限り、借地人(借りている人)が望めば、契約が更新される借家権のことです。このような契約を、普通借家契約といいます。

契約は、口頭でも書面でも構いません。

契約期間は1年以上で、1年未満の期間を定めた場合は、期間の定めのない契約になります。

契約期間の満了時には、同一条件で更新されます。賃貸人(家主)が契約を解除したい場合は、期間満了の1年から6か月前までに、正当な事由をもって通知しなければいけません。

定期借家権

定期借家権 とは、一定期間で契約が終了する借家権のことです。このような契約を、定期借家契約といいます。

契約は公正証書などの書面で行います。

契約期間は自由で、1年未満でも構いません。

契約時には、家主は借主に、期間満了で賃貸借が終了することを、書面を交付して説明しなければいけません。また、契約期間が1年以上の場合は、期間満了の1年から6か月前までに、賃貸借契約が終了する旨の通知が必要です。契約を終了させるための正当な事由はなくても構いません。

契約終了の通知が遅れたときは、通知の日から6か月間は、家主は借主に立ち退き請求ができないので、注意が必要です。

契約の更新はありませんが、契約終了後に再契約することはできます。

造作買取請求権

借主が契約を解除するとき、借主が家主の了解を得て取り付けたエアコンやインターネット機器などは、家主に時価で買い取るように請求できます。これを 造作買取請求権 といいます。ただ、契約時に、造作買取請求権を破棄させる特約をつけることもできます。

問題を解いてみましょう

ここまでの内容を踏まえて、問題を解いてみましょう。〇か×かを答える問題と、3つの選択肢から選ぶ問題があります。

例題

宅地建物取引業法第35条に規定する重要事項の説明が必要な場合は、宅地建物取引士は、売買契約が成立した後、速やかに相手方に説明を行わなければいけない。

Answer

×
宅地建物取引士による重要事項の説明は、売買契約の前に行う必要があります。

例題

宅地建物取引業法により、不動産取引について依頼者が宅地建物取引業者と結ぶ媒介契約のうち、専任媒介契約の有効期間は最長で(???)と定められている。

a. 3か月
b. 6か月
c. 12か月

Answer

a
専任媒介契約・専属専任媒介契約の契約有効期間は、最大で3か月と定められています。一般媒介契約の場合は契約期間の制約はありません。

例題

不動産の売買契約において、宅地建物取引業者が売主で、宅地建物取引業者でないものが買主の場合、代金の額の(???)を超える額の手付金を受領できないことが、宅地建物取引業法で定められている。

a. 10分の1
b. 10分の2
c. 10分の3

Answer

b
売主が宅建業者、買主が宅建業者以外の場合、手付金は売買代金の20%を超えてはいけません。

例題

民法の規定によれば、不動産の売買契約において、売買の目的物に種類または品質に関して契約の内容に適合しない事実があり、買主が売主に対して担保責任にもとづく損害賠償の請求をする場合、買主は、その不適合がある事実を知った時から(???)以内にその旨を売主に通知しなければならない。

a. 1年
b. 5年
c. 10年

Answer

a
1年以内に通知する必要があります。

また、請求をしないまま、不適合があることを知ったときから5年、または、売買から10年たったとき、買主の権利は消滅してしまいます。これらを過ぎる前に請求する必要があります。

例題

事業用定期借地権は、主に事業の用に供する建物の所有を目的とするものであるが、賃貸マンションや社宅等の居住用建物の所有を目的として設定することもできる。

Answer

×
事業用定期借地権は、事業用の建物だけに限定されます。

例題

事業用定期借地権等の設定を目的とする契約は、公正証書によって締結しなければならない。

Answer


その通りです。公正証書によらない特約は無効となり、普通借地権となります。

例題

建物の賃貸借契約において、定期借家契約では契約期間を1年未満の期間と定めることはできるが、それ以外の契約では1年未満の期間を定めることはできず、もし1年未満の期間を定めた場合は、期間の定めのない契約とみなされる。

Answer


その通りです。
定期借家契約では1年未満の契約もできますが、普通借家契約では1年未満の契約はできません。もし、普通借家契約において1年未満の期間で契約した場合は、その期間は無効となり、期間の定めのない契約とみなされます。