所得控除
所得控除
ここまでで、所得を10種類に分類し、収入金額から必要経費を引いて、所得を計算しました。所得税は、これらの合計からさらに 所得控除額 を引いた金額に対して税率を掛けて計算します。
所得控除 とは、扶養家族が何人いるかなど、個人的な事情を加味して税負担を調整 するものです。全部で15種類あります。大きく分けると、物的控除と人的控除に分類できます。
所得から所得控除を引いたものを、課税所得金額 といいます。
外部参考リンク
物的控除
医療費控除
医療費控除 は、医療費の一定額が控除されるものです。
納税者本人や家族のために、その年に支払った額が対象です。未払いの場合は、払った年に控除します。
控除額は以下の通りです。
医療費控除額の計算
医療費控除額 = 総医療費 - 保険金で補填された金額 - (総所得金額 x 5% と 10万円との低い方)
ただし、控除額の上限は 200万円 です。
医療費の対象となるのは、以下のようなものです。
- 医師、歯科医師による診療や治療の費用
- 医薬品の購入費用(病気予防目的のサプリなどは除く)
- 出産費用
- 通院にかかる交通費
一方、以下のようなものは対象外です。
- 美容整形のための費用
- 人間ドックや健康診断の費用
- 差額ベッド代
- 通院にかかる自家用車のガソリン代
- 病気予防目的のサプリなどの購入費
- 眼鏡、コンタクトレンズ、補聴器などの購入費
- 未払いの医療費
- 実際に払った年に控除の対象になる
美容整形、人間ドック、眼鏡などは、治療ではないので医療費控除の対象外です。ただし、人間ドックを受けた結果、重大な病気が見つかって引き続き治療を受けた場合は、人間ドック費用が治療の延長と解釈され、医療費控除の対象となります。
セルフメディケーション税制
セルフメディケーション税制 とは、特定の医薬品を購入したときに受けられる控除 です。医療費控除の特例です。
対象となるのは、人間ドックやインフルエンザの予防接種など、疫病予防を行っている人です。
対象となる医薬品は、病院で処方されていた医薬品の中で、一般の薬局でも購入できるようになった スイッチOTC医薬品 といわれるものです。スイッチOTC医薬品を買うと、レシートに「セルフメディケーション税制対象」と書かれています。
控除額は以下のように計算します。
セルフメディケーション税制に関する控除額
控除額 = 対象医薬品購入費 - 保険金などの補填金額 - 12,000円
ただし、控除額の上限は 8万8千円 です。上の式からもわかる通り、1万2千円以上使っていないと、控除はありません。
また、この控除を受けるには確定申告が必要で、明細書を作成しなければいけません。また、5年間は、税務署から聞かれたときに、疫病予防を行っている書類の提示や、対象医薬品の領収書を提示できるようにしておく必要があります。
セルフメディケーション税制の適用を受ける人は、通常の医療費控除を受けることができません。
社会保険料控除
社会保険料控除 とは、公的年金の保険料や、健康保険料など、社会保険料を支払った場合に受けられる控除 です。
支払った社会保険料は、全額が社会保険料控除の対象で、上限はありません。
小規模企業共済等掛金控除
小規模企業共済等掛金控除は、小規模企業共済や確定拠出年金の掛金を支払った場合に受けられる控除 です。
支払った保険料の全額が控除額です。
生命保険料控除
生命保険料控除は、生命保険料を支払った場合に受けられる控除 です。
一般の生命保険料、個人年金保険料、介護医療保険料の3つに分けて、それぞれ控除額を計算します。2012年1月1日以降に契約していた場合、それぞれ、最高4万円が控除限度額です。
地震保険料控除
地震保険料控除は、地震保険料を支払った場合に受けられる控除 です。
支払った保険料の全額が控除額です。ただし、最大控除額は 5万円 です。
寄付金控除
寄付金控除 とは、国や地方自治体、特定の法人などに寄付をした場合に受けられる控除 です。寄付は、寄附とも書きます。
控除額は、次の通りです。
寄付金控除の計算
控除額 = 寄付金 - 2,000円
ふるさと納税
ふるさと納税とは、好きな自治体に寄附をして寄付金控除を受ける制度です。
ふるさと納税は、自分の税金(の一部)を好きな自治体に納税することができます。「ふるさと」とついていますが、自分の生まれた場所以外の自治体を選ぶこともできます。また、税金の使い道を指定できたり、自治体から 返礼品 を受け取れることもあります。
基本的に、ふるさと納税を行うには、確定申告が必要です。しかし、寄附する先が5団体以内であれば、各自治体に申請することで確定申告が不要となる「ふるさと納税ワンストップ特例制度」もあります。
雑損控除
雑損控除 は、災害・盗難・横領 などにより、住宅や家財などの生活に必要な資産に損失を受けた場合に受けられる控除です。
控除額は、次の2つのうちの多い方です。
- 損失額 - 総所得金額の合計の10分の1
- 災害関連支出 - 5万円
なお、その年の所得金額で控除しきれない場合は、翌年以後3年間繰り越すことができます。
人的控除
配偶者控除
配偶者控除とは、納税者に配偶者がいる場合、条件を満たしていれば受けられる控除 です。
配偶者の要件は、以下の4つです。すべてを満たす必要があります。
- 民法上の配偶者である(内縁関係の人は該当しない)
- 納税者と生計を一にしている
- 合計所得金額が48万円以下(給与所得のみの場合は、給与収入が103万円以下)
- 青色事業専従者として給与の支払いを受けていない
条件にある「所得金額48万円以下」の48万円は、後で述べる基礎控除の額です。「給与収入103万円以下」の103万円は、基礎控除48万円に、給与所得控除55万円を足した金額です。
配偶者控除の額は、納税者の所得金額と配偶者の年齢に応じて変わります。所得金額が1000万円を超えている場合は、控除はありません。
配偶者が70歳未満のときは、次の通りです。
- 所得金額:900万円以下 の場合
- 配偶者控除:38万円
- 所得金額:900万円超 950万円以下 の場合
- 配偶者控除:26万円
- 所得金額:950万円超 1000万円以下 の場合
- 配偶者控除:13万円
- 所得金額:1000万円超 の場合
- 配偶者控除:なし
配偶者が70歳以上のときは、次の通りです。
- 所得金額:900万円以下 の場合
- 配偶者控除:48万円
- 所得金額:900万円超 950万円以下 の場合
- 配偶者控除:32万円
- 所得金額:950万円超 1000万円以下 の場合
- 配偶者控除:16万円
- 所得金額:1000万円超 の場合
- 配偶者控除:なし
配偶者特別控除
配偶者の所得が48万円を超えていても、133万円以下であれば、一定額の所得控除が受けられる場合があります。この控除のことを、配偶者特別控除 といいます。
配偶者特別控除を受けるには、配偶者控除のときと同じ、「民法上の配偶者であること」「納税者と生計を一にしていること」「青色事業専従者として給与の支払いを受けていない」の条件を満たす必要があります。さらに
- 配偶者の合計所得金額が48万円超133万円以下(給与収入103万円超~201万円以下)
という条件を満たす必要があります。
控除額の詳細は、以下のページに記載されています。
参考外部リンク
配偶者の合計所得額が95万円以下なら、配偶者特別控除は配偶者控除と同じ額です。納税者の合計所得が900万円以下なら、配偶者特別控除は38万円となります。
納税者の合計所得が1000万円超の場合は、配偶者特別控除を受けることはできません。
扶養控除
扶養控除とは、扶養している家族がいる場合、一定の条件を満たせば受けられる控除 です。
扶養家族とは、納税者と生計を一にする、配偶者以外の親族です。ここでいう「扶養」は税制法上の話であり、社会保険上の「扶養」とは異なるので注意しましょう。
扶養家族の合計所得金額が48万円以下の場合に、扶養家族の年齢(12月31日時点)によって、以下のような控除が受けられます。
- 16歳未満
- 控除額:なし
- 16歳以上 19歳未満
- 控除額:38万円
- 19歳以上 23歳未満
- 控除額:63万円
- 23歳以上 70歳未満
- 控除額:38万円
- 70歳以上
- 控除額:58万円(ただし、同居していない場合は 48万円)
なお、16歳以上の扶養家族を「控除対象扶養親族」といい、そのうち19歳以上23歳未満を「特定扶養親族」、70歳以上を「老人扶養親族」といいます。
ひとり親控除
ひとり親控除 とは、ひとり親に該当する場合に受けられる控除 です。
対象となるのは、以下の条件です。
- 婚姻をしていない
- 生計を一にする子がいて、その人の合計所得金額が48万円以下
- 納税者の合計所得金額が500万円以下
控除額は、35万円です。
寡婦控除
寡婦控除 とは、寡婦に該当する場合に受けられる控除 です。
対象となるのは、以下の条件です。
- ひとり親ではない(ひとり親控除の内容を参照)
- 次のどちらかを満たす
- 夫と離婚して、その後婚姻をせず、扶養家族がいる
- 夫と死別して、その後婚姻をしていない(扶養家族がいなくてもよい)
- 納税者の合計所得金額が500万円以下
控除額は、27万円です。
勤労学生控除
勤労学生控除 とは、本人が勤労学生である場合に受けられる控除 です。
勤労学生とは、次の条件すべてを満たす人です。
- 小学校、中学校、高校、大学などに通う学生
- 働いていて、所得がある
- 合計所得金額が75万円以下(給与所得だけの場合は年収130万円以下)で、勤労による所得以外の所得が10万円以下
控除額は27万円です。
障害者控除
障害者控除とは、納税者本人や配偶者、扶養家族が障がい者である場合に受けられる控除 です。
納税者本人が障がい者であるときは、障害者控除として27万円が控除されます。特別障害者(障害等級が1級の場合など)の場合は、特別障害者控除として、40万円が控除されます。
配偶者や扶養家族が障がい者であるときも、障害者控除は27万円、特別障害者控除は40万円です。また、特別障害者と同居している場合は、75万円の控除が受けられます。
基礎控除
基礎控除 は、すべての人に適用される控除 で、合計所得に応じて控除額は以下のようになります。最大で48万円です。
- 合計所得金額が 2400万円以下
- 控除額:48万円
- 合計所得金額が 2400万円超 2450万円以下
- 控除額:32万円
- 合計所得金額が 2450万円超 2500万円以下
- 控除額:16万円
- 合計所得金額が 2500万円超
- 控除額:なし
共働きの場合はどうする?
共働きの場合に、子どもが1人いる場合を考えましょう。
この場合、この子どもを、夫の扶養家族にすることもできますし、妻の扶養家族にすることもできます。ただし、重複することはできません(つまり、「夫の扶養家族でもあり、妻の扶養家族でもある」とはできない)。
また、子どもが2人いる場合、1人を夫の扶養家族にし、もう1人を妻の扶養家族にする、ということもできます。ただ、子どもが16歳以上の場合は、通常、年収が多い方の扶養家族にしたほうが控除額が大きくなります。