債券投資
債券とは
債券 とは、国、地方公共団体、企業が資金を調達するために発行するもの です。
国が発行する債券を 国債 といいます。日本では、国債といえば日本政府が発行したものを指しますが、正確に言いたい場合は日本国債といいます。
地方公共団体が発行する債券は 地方債、企業が発行する債券は 社債 といいます。
債券の発行
債券の発行者は、「いつまでに、いくらを返済します。その間の期間、これだけの利息を払います」という条件を決めて発行し、資金を調達します。
債券の購入者は、最後まで保有しておくこともできますし、途中で別の人に売却することもできます。
以下では、債券の発行時に決める条件について見ていきます。
額面金額
債券には、金額が記載されています。この金額のことを 額面金額 といい、債券保有者のもとへ最終的に返ってくる元本部分の金額を表しています。
例えば、個人が購入できる個人向け国債の場合、額面は1万円となっています。
表面利率
債券には、利率が記載されています。この利率のことを 表面利率 といいます。クーポンレート ともいいます。
表面利率は、額面金額に対して、1年間の利子の割合を表しています。通常、利息は年に2回支払われます。
額面1億円分の債券を持っていて、表面利率が 1% であれば、半年ごとに50万円の利息が払われる、という計算になります。
発行価格
発行価格とは、債券を発行するときの額面100円に対する払込金額 のことです。
少し変に感じるかもしれませんが、債券は額面金額で発行されるとは限りません。
例えば、額面100円当たり99円で発行される債券で考えてみましょう。この債券をずっと持っておくと、最終的に 100円が返ってきます。つまり、1円分が益となって返ってくるわけです。この益は、利息とは別に発生するものです。
額面100円に対し、額面通りの100円で債券が発行される場合、パー発行といいます。100円より低い価格で発行される場合は、アンダーパー発行といい、100円より高い場合は、オーバーパー発行といいます。
アンダーパー発行の債券を発行時に購入して最後まで持っていれば、発行価格と額面金額の差がプラスとなって戻ってくることになります。
償還期限
額面金額のお金が債券保有者に返ってくる日を 償還期限 といいます。償還日や満期日ということもあります。
アンダーパー発行の場合、発行価格と償還価格の差の分だけ益が出ます。この益のことを償還差益といいます。一方、オーバーパー発行のときは損が出ますが、この損のことを償還差損といいます。
利付債と割引債
上の表面利率のところで見たように、各利払日ごとに支払われる利息は、表面利率をもとに計算されます。
中には、表面利率が 0% の債券があります。このような債券を 割引債 といいます。通常はアンダーパーで発行され、購入者は償還差益だけが得られます。クーポンレートがゼロなので、 ゼロクーポン債 ともいいます。
表面利率が 0% より大きい債券は、利付債 といいます。
債券の利回り
債券には、表面利率があり、利払日に利息が支払われます。
これ以外に、債券に投資する場合には、償還差益・償還差損も考える必要があります。これらも加味した、投資金額に対する1年あたりの収益の割合のことを 利回り といいます。
利率と利回りは異なる
紛らわしいですが、利率と利回りは異なります。もう一度まとめておきましょう。
利率は、額面金額に対する1年間あたりの利息の割合です。
一方、利回りは、投資金額に対する1年間あたりの収益の割合です。
利回りの具体的な計算例は、以下で見ていきましょう。
利回りの計算は、「1年間の収益合計 ÷ 投資金額」で計算します。
1年間の収益は、まず利息がありますね。これ以外に、償還差益・償還差損があります。1年あたりにするためには、投資する期間で割ればいいですね。
以上から計算できますが、どのように投資するかで場合分けをして、具体的な計算式を見ていきましょう。
応募者利回り
債券が発行されたときに購入し、償還期限まで持っていたときの利回りを、応募者利回りといいます。以下のように計算します。
応募者利回りの計算式
応募者利回り = {1年間の利息 + (額面金額 - 発行価格) ÷ 償還期間} ÷ 発行価格
「(額面金額 - 発行価格) ÷ 償還期間」は、償還差益・償還差損を1年あたりに変換している計算式です。
最終利回り
すでに発行されている債券を購入し、償還期限まで持っていたときの利回りを、最終利回りといいます。以下のように計算します。
最終利回りの計算式
最終利回り = {1年間の利息 + (額面金額 - 買付価格) ÷ 償還期間} ÷ 買付価格
応募者利回りと比較すると、発行価格が、買付価格(購入したときの価格)に変わっただけです。
所有期間利回り
持っていた債券を償還期限より前に売却したとき、持っていた期間の利回りを、所有期間利回りといいます。
債券が発行されたときに購入して、償還期限より前に売却したときの所有期間利回りは、以下のように計算します。
所有期間利回りの計算式
所有期間利回り = {1年間の利息 + (売却価格 - 発行価格) ÷ 所有期間} ÷ 発行価格
応募者利回りと比較すると、償還金額が、売却価格に変わっただけです。
すでに発行されている債券を購入して、償還期限より前に売却したときの所有期間利回りは、以下のように計算します。
所有期間利回りの計算式
所有期間利回り = {1年間の利息 + (売却価格 - 買付価格) ÷ 所有期間} ÷ 買付価格
先ほどの式で、発行価格が買付価格に変わっただけです。
ここまでの内容を見てもわかる通り、計算している内容はほとんど同じです。どのタイミングの価格を使うかが違うだけです。
直接利回り
投資金額に対する、毎年受け取れる利息の割合を、直接利回り といいます。
直接利回りの計算式
直接利回り = 1年間の利息 ÷ 買付価格(または発行価格)
額面金額に対して払われる利息の割合が利率ですが、直接利回りは、投資金額に対して計算している点が異なります。
債券の種類
債券には、誰が発行するかによって、国債や社債など、名前が変わります。以下では、各債券の特徴などを見ていきます。
国債
国(日本政府)が発行する債券を、国債(正確には日本国債)といいます。
日本で発行される債券の中では、国債が最も多いです。
さまざまな年限の国債が定期的に発行されていますが、その中でも、一番最近発行された10年国債(新発10年国債といいます)の利回り は、長期金利の指標として、特に注目されます。
額面は、5万円となっています。
国債は債券市場で日々売買されていて、価格は変動します。そのため、途中で売却すると、想定より安くなる可能性があります。元本割れのリスクもあります。
個人向け国債
国債には、個人だけが購入できる個人向け国債 があります。
個人向け国債は、通常の国債よりも金利が低く設定されますが、以下のようなメリットがあります。
- 1万円から購入できる
- 金利の下限が保証される(最低0.05%の金利を保証)
- 元本割れのリスクがない
- 発行から1年経過後は、償還前に売却できる。そのときは、国が額面で買い取る。
商品は3種類あります。
期間が10年で、半年ごとに金利が変動する変動10年 という商品は、「基準金利 x 0.66」の金利が設定されます(基準金利は、10年国債金利をもとに計算)。
期間が5年で、金利が固定の固定5年 という商品は、「基準金利 - 0.05%」の金利が設定されます(基準金利は、5年国債金利をもとに計算)。
期間が3年で、金利が固定の固定3年 という商品は、「基準金利 - 0.03%」の金利が設定されます(基準金利は、3年国債金利をもとに計算)。
いずれも、0.05% の最低金利が保証されています。また、発行後1年経過すれば、額面金額で換金することができます。
社債
社債 は、企業が資金調達を行うために発行する債券 です。
社債を発行した企業は、利払日に利息を払い、償還日には現金を払うことになるので、実質、お金を借りているのと同じことになります。借入と異なるのは、借り手が銀行などの金融機関ではなく、投資家だという点です。
企業が資金調達を行う手段として株もあります。株の場合、投資家が得られるものは、業績のいいときに配られる配当金や、株の売却益などです。
投資家の立場から、債券と株を比較してみましょう。
もし企業の業績が悪くなっても、社債の場合は、利息や償還金の支払いがある限り、特に問題ありません。しかし、株の場合は、業績が悪いと株価が下がり、株を売ったときに売却損が出てしまう可能性が高まります。
一方、業績が良いと、社債の場合は、利息以上はもらえません。株の場合は、配当金などが増え、株価も上昇する可能性が高くなります。
このことから、社債は企業が存続すること、株は企業が成長することに重点を置いて投資するもの、といえるでしょう。
社債は、企業によって発行する条件がまちまちです。一般に、投資家は、お金が返ってくるところに投資したいので、業績のいい企業を選びます。そうすると、業績のいい企業ほど、低い金利で社債を発行できます。価格でいうと、みんなが欲しがるので価格は上昇します。
一方、業績の悪い企業は、社債の金利は高く、価格は下落します。
債券投資のリスク
債券投資には、以下に挙げるようなリスクがあります。
信用リスク
債券で一番のリスクは、「元本が返ってこないリスク」です。もし、発行体の財務状況が悪化して倒産し、元本が返ってこないとなると、投資家は大きな損害を被ってしまいます。
このような、発行体の財務状況が悪化して、利息や元本が払えなくなるリスクのことを 信用リスク といいます。債務不履行リスク(さいむふりこう)、デフォルトリスク ともいいます。
信用リスクが高いとは、「利息や元本などが払える」という信用がなくなっていることをいいます。このとき、多くの人はそんな債券を買いたくないので、価格は安くなり、金利は高くなります。ハイリスク・ハイリターンの債券になります。
一方、信用リスクが低いとは、「利息や元本などが払える」という信用があることをいいます。価格は高くなり、金利は低くなります。ローリスク・ローリターンの債券になります。
価格変動リスク
債券は、日々売買されているので、価格が当初買った金額より下がる可能性があります。このタイミングで売却すると、元本割れを起こしてしまいます。
このように、売却価格が変動してしまうリスク のことを、価格変動リスク といいます。
流動性リスク
流動性リスク とは、換金したいときに買い手が見つからず、すぐに売れなかったり、想定よりも安い価格でしか売れなくなるリスクをいいます。
国債は頻繁に売買されていますが、社債は売買頻度が少ないので、社債の流動性リスクは国債の流動性リスクより高いと言えます。
カントリーリスク
カントリーリスク とは、外国の債券に投資した場合、その国の政治経済情勢などの変化によって、価格が急変動したり、元本が返ってこなくなるリスクのことを言います。
先進国ではカントリーリスクはあまり高くなく、新興国ほどカントリーリスクは高くなります。
債券の格付け
先ほども見た通り、債券には信用リスクがあります。しかし、債券を買う方からすると、どの発行体が信用できるかはわかりづらいです。債券の発行者が、自分で「うちは信用できますよ」と言っても、あまり意味がないですしね。
そこで、格付け という指標が使われます。これは債券の発行体の安全性の度合いを表したものです。
債券の発行体とは異なる第三者の 格付け会社 が評価します。代表的な格付け会社は、アメリカのスタンダード・アンド・プアーズやムーディーズ、日本の格付投資情報センター(R&I)や日本格付研究所(JCR)などです。
格付けの方法、安全性の表し方は、それぞれの格付け会社で異なりますが、スタンダード・アンド・プアーズの場合は、
- AAA(トリプルエー)
- AA(ダブルエー)
- A(シングルエー)
- BBB(トリプルビー)
などのアルファベットで表します。この例では、上に行くほど信用度が高く、下に行くほど低くなります。これらは、投資適格債券と呼ばれていて、これより格付けが低いものは、投資不適格債券(投機的債券)と呼ばれます。
信用度が低くなるにつれ、利回りは高くなりますが、デフォルトのリスクは高まります。
もちろんですが、この格付けも1つの指標ですので、AAAだから絶対に安全というわけではありません。