不動産の見方
不動産
人間が生きていくには、住む場所が必要です。ずっと賃貸で暮らすこともできますが、中には、マイホームを持ちたいという人もいるでしょう。
ただ、家や土地の売買は、他の商品の売買とは異なるところが多いです。
例えば、家や土地は、替えが効きません。買ったばかりの家電が初期不良品だったら別のに交換してくれるかもしれませんが、買った家に問題があっても、「別の家に交換」とはいきません。同じ場所に建つ同じ間取りの家は、世界に1つしかないからです。
また、移動が簡単ではない、という特徴もあります。そのため、例えば、その土地や建物が誰のものかがわかりにくいです。誰かが身につけているものなら、その人が持ち主だと考えられますが、空き地の場合は、見ただけで「これが誰の土地か」はわかりません。では、これを売買するにはどうするのでしょう。
このように、家や土地は、他のものとは大きく性質が異なります。そのため、家や土地については、特別なルールが制定されています。
土地や建物のことを、不動産 といいます。不動産以外のものは動産といって、両者を区別します。
FP3級の試験では、不動産に関する法律、取引の仕方、税金などについて出題されます。不動産の取引をしたことがないと、耳慣れない用語・ルールが出てきますが、順番に見ていきましょう。
不動産の類型
不動産には、いくつか種類があります。土地の上に建物があるかどうか、自分で使っているか他人に貸しているか、といった点に着目して分類することを、不動産の類型といいます。
不動産の類型は、大きく、「宅地」と「建物およびその敷地」に分かれます。
「宅地」は、更地、建付地、借地権、底地、などに分かれます。
更地(さらち)とは、建物がない土地のことです。
建付地(たてつけち)とは、建物の敷地になっている土地で、建物と土地の所有者が同じ土地のことをいいます。
他人から借りている土地のことを 借地(しゃくち)といい、この借地に、自分の建物を建てたりして土地を使う権利を借地権といいます。
底地(そこち)は、他人に貸している土地(またはその土地の所有権)のことです。底地を持っている人には、他人に土地を貸して賃料を得る権利などがあります。
借地と底地は同じ土地を表していて、誰から見ているか(借りている人から見るか、貸している人から見るか)で呼び方が変わる、ということです。
「建物およびその敷地」には、「自用の建物及びその敷地」「賃家及びその敷地」「借地権付き建物」「区分所有建物及びその敷地」があります。いずれも、建物と土地を指しますが、所有権の違いがあります。
「自用の建物及びその敷地」は、建物と土地の所有者が同じ場合(一戸建てのマイホームや自社ビルなど)です。
「賃家及びその敷地」は、土地も建物も借り物で、土地と建物の所有者は同じ場合です。
「借地権付き建物」は、土地は借り物、建物は自分のもの、というケースです。
「区分所有建物及びその敷地」は、いわゆるマンションのことです。
不動産の権利
不動産には、さまざまな権利が存在します。ここでは、重要な、所有権、借地権、借家権、抵当権の4つを見ておきましょう。
所有権とは、所有者がそれを使ったり処分することができる権利です。
借地権は、類型のところでも出てきましたが、借りた土地の上に自分の建物を立てたりして土地を使う権利のことです。
借家権は、建物を借りたときに生じる借主側の権利のことです。例えば、正当な理由がなければ、退去の要求にこたえなくてもよい権利などがあります。
抵当権は、住宅ローンなどでお金を借りるときに、返済できない場合に備えて、お金の貸し手が土地や建物を担保とする権利のことです。返済できない場合は、担保に差し出した土地や建物は貸し手のものになります。貸し手はそれらを処分して、返済されなかった資金にあてます。
不動産登記
不動産は持ち運びできるものではないので、「その不動産がだれのものか」や「この不動産は自分のものだ」ということを第三者に示すのは難しいです。そこで、不動産には登記といわれる制度があります。
不動産に関する、場所・権利などの情報は、法務局にある不動産登記記録(不動産登記簿)に記載されています。この不動産登記記録に権利関係などを記載し、公示することを、不動産の登記 といいます。
土地を数えるときには「筆」という単位を使いますが、登記記録は一筆の土地・一個の建物ごとに作成されています。
不動産登記簿は、法務局(登記所)で、登記事項証明書の交付申請をすれば、だれでも 記載事項を確認できます。また、オンラインからも申請でき、郵送か窓口交付で受け取ることができます。窓口申請でもオンライン申請でも、手数料がかかります。
不動産登記簿の構成
不動産登記簿は、表題部と権利部の2つから構成されています。
表題部には、土地・建物の「物理的な状況」が記載されています。土地の場所や面積、建物の家屋番号や床面積などです。表題部は登記義務があり、所有権を取得してから1か月以内に登記を申請しなければいけません。
権利部は、所有権に関する甲区と所有権以外に関する乙区の2つから構成されています。所有権以外が載っている乙区には、例えば、抵当権や貸借権などの情報が載っています。権利部は登記義務はないため、登記されている名義と実際の所有者が異なる場合もあります。
不動産登記簿の表題部には、土地には地番、建物には家屋番号がついています。これは、登記上で管理するためにつけられている番号なので、住所とは異なるので注意が必要です。
不動産登記簿の効力
不動産の登記には、どのような効力があるかを見ていきます。
まず、不動産登記には、権利関係を第三者に対抗できるという効力 があります。これを 対抗力 といいます。
不動産の売買契約を行うと、当事者間では所有権が移ったとわかります。しかし、当事者以外はわかりません。そのため、「これはオレの不動産だ」という人が出てきた場合に、困ってしまいます。こういう場合でも、登記をしていれば、不動産の購入者は「この不動産は私のものだ」と第三者に主張できます。
このケースでは、売買契約書が所有権移転の証明にもなりえるかもしれませんが、次のような場合だとどうでしょう。
悪夫さんが一郎さんに不動産を5000万で売ったとしましょう。そして、一郎さんは登記をしないままでいたとします。後になって、別の二郎さんが悪夫さんのところにやってきて「私なら1億円で買う」といったとします。ここで、悪夫さんが二郎さんにも売ってしまい、二郎さんは登記を済ませてしまいました。
この場合、はじめに買っていた一郎さんは「私が先に買ったのだから、この不動産は自分のものだ」という主張は通りません。二郎さんの「登記上は私のものなので、この不動産は自分のものだ」という主張が通ります。一郎さんは悪夫さんに「金を返せ」とは言えますが、この不動産を手にすることはできません。
不動産を買ったら、すぐに登記をしないといけないことがわかりますね。
一方で、不動産登記には、「登記の内容と実際の権利関係が異なるとき、登記の内容を信じて取引しても保護されない」という性質があります。このことを、不動産登記には公信力がない といいます。
例えば、良夫さんが持っている不動産を、悪夫さんが不正な手段で登記をしたとします。この登記内容を信じていた良子さんが、悪夫さんからこの不動産を購入したとしましょう。
このとき、良子さんはこの不動産を手にすることはできません。実際の所有権は良夫さん、登記上は悪夫さんとなっていましたが、実際の所有権(良夫さんのものであること)のほうが優先されてしまいます。
良子さんは、悪夫さんに「金を返せ」とは言えますが、この不動産を手にすることはできません。登記内容は真実を担保しているわけではありません。
不動産を登記するときには、登記官が現地に行くことはなく、文書だけで登記処理を行っています。取引の実態を把握しているわけではないので、公信力がないと言われています。
ただ、実務的には、不正に登記をすることは難しい(登記には、売買契約書や、売主・買主の本人確認が必要なため)ことから、発生することはまれです。また、上の例での良夫さんと悪夫さんが組んで良子さんをだましているときには、良子さんが保護されるという例外もあるため、問題になるケースは少ないです。
公図など
法務局には、不動産の場所や広さを確認する資料がいくつかあります。
まず、不動産登記法第14条によって作られている図面があります。これを、14条地図 といいます。この14条地図は、一筆ごとに境界などを正確に調査して作られています。ただ、日本のすべての地域で作られているわけではありません。完成していない地域もあります。
そこで、14条地図がない地域では、公図 が使われます。ただ、この公図は精度が低く、あまり正確ではありません。というのも、もともと明治時代に税金を徴収するために作られた部分が大半だからです。測量の機器や技術が未熟だったので、おおよその位置や形状を表しているものだと思っておいた方がいいでしょう。
地積測量図 も法務局で見ることができます。土地の測量の結果を表示した図面です。
不動産の価格
不動産の価格の種類
不動産は、売買するときの価格(実勢価格)以外に、4つの公的な価格があります。使用目的などが異なるため、複数あります。
1つ目は、公示価格 です。国土交通省 が、毎年1月1日時点で評価し、3月下旬に発表します。一般の土地取引の指標 として使われるものです。そのため、評価されるのは土地取引がある程度見込まれる地域だけであり、全国3万程度の地点が対象となっています。
2つ目は、基準地価 です。都道府県 が、毎年7月1日時点で評価し、9月下旬に発表します。これも一般の土地取引の指標として使われますが、公示価格の調査で網羅しきれないエリアをカバーしています。公示価格の補完的役割があります。
公示価格の対象地域と基準地価の対象地域はかぶっていることもあります。2つの価格は管轄が違うので評価は少し違いますが、かぶっているエリアは、半年ごとの価格変動が見れることになります。
3つ目は、路線価 です。相続税評価額ともいいます。国税庁 が、毎年1月1日時点で評価し、7月上旬に発表します。相続税や贈与税の算出基準になるもので、公示価格の80%程度の価格となっています。安く評価されるほど税金は安くなるので、80%程度の価格なのはありがたいですね。
4つ目は、固定資産税評価額 です。これは、市区町村 が管轄しています(東京23区は東京都が管轄)。3年ごとに、1月1日時点で評価し、4月上旬頃に確定します。固定資産税評価額は公表されておらず、不動産の所有者や一定の関係者だけが市役所などで確認できます。(概算値を調べるサービスはあります。)
固定資産税評価額は、公示価格の70%程度の価格です。名前の通り、固定資産税の算出に使いますが、他の税額の計算にも用いられます。固定資産税は毎年払うものなので、路線価よりもさらに安い70%程度で評価されるのはありがたいです。
参考外部リンク
- 地価・不動産鑑定:地価公示 - 国土交通省
- 公示価格のページです。
- 東京都基準地価格 | 東京都基準地価格 | 東京都財務局
- 基準地価の例として、東京都の基準地価のページです。
- 財産評価基準書|国税庁
- 路線価が調べられるページです。
不動産の鑑定評価法
不動産の価格は、正当なものかどうかを判断するのが難しいため、不動産鑑定士に評価を依頼します。
不動産鑑定士が行う鑑定評価方法は、大きく分けると、原価法、取引事例比較法、収益還元法の3つがあり、複数を組み合わせて評価します。
原価法
原価法は、再調達原価をベースにして、減価修正を行って評価額を求める 方法です。
再調達原価とは、その時点で新しく対象の不動産を取得するときにかかる費用のことです。建物なら建築費など、土地なら取得原価などが該当します。
ただ、今ある建物は建ってしばらく経っているはずなので、その分をマイナスします。このことを減価修正といいます。建物の老朽化、設備の老朽化、近隣地域の衰退などが要因となります。
取引事例比較法
取引事例比較法 は、条件の近い過去の取引と比較して評価額を求める 方法です。
まったく同じ条件の不動産はこの世にありませんが、近隣不動産の取引事例を複数使います。このとき、売り急いだ物件、買い急いだ物件(投機的な物件)は、排除したり補正して計算します。
収益還元法
収益還元法 は、不動産を貸したときに生み出す賃貸収入などの収益から評価額を求める 方法です。
収益還元法には、直接還元法とDCF法の2種類があります。
直接還元法は、純利益と還元利回りから評価額を計算する方法です。以下の計算式で求めます。
直接還元法の計算式
(総収入 - 必要経費) ÷ 還元利回り
年間の総収入が700万円で、必要経費が200万円、還元利回りが5%だとすると
(700万円 - 200万円) ÷ 5% = 1億円
となります。
DCF法は、将来の純利益と将来の不動産売却価格とを、現在価値に割り戻して合計する方法です。DCFとは、Discounted Cash Flowの略で、Cash Flow とは、お金の流れのこと、ここでは、将来入ってくる純利益と不動産売却収入のことで、Discounted とは、現在価値に引き直すこと、割引率を掛けることをいいます(参考:ライフプランニングの考え方・手法 の「現価係数」)。
問題を解いてみましょう
ここまでの内容を踏まえて、問題を解いてみましょう。〇か×かを答える問題と、3つの選択肢から選ぶ問題があります。
例題
不動産の登記事項証明書の交付請求ができる者は、対象不動産の所有者に限られる。
Answer
×
不動産の登記事項証明書の交付請求は、だれでもできます。
例題
不動産登記記録の権利部の甲区には、所有権に関する事項が記録されている。
Answer
〇
その通りです。
例題
不動産登記には公信力がないため、登記記録上の権利者が真実の権利者と異なっている場合、登記記録を信頼して取引をしても、原則として法的に保護されない。
Answer
〇
その通りです。不動産登記には公信力がありません。
例題
固定資産税評価額の評価替えは、原則として、3年ごとに行われる。
Answer
〇
その通りです。
例題
国土交通省が公表する公示価格は、毎年7月1日を基準日としている。
Answer
×
公示価格の基準日は、毎年1月1日です。
例題
不動産の登記記録の(???)には、抵当権や借地権などに関する事項が記録されている。
a. 権利部(甲区)
b. 表題部
c. 権利部(乙区)
Answer
c
不動産登記記録の権利部(乙区)には、抵当権や借地権などの、所有権以外の権利について記録されています。
例題
不動産の価格を求める鑑定評価の手法のうち、(???)は、再調達原価をベースにして、減価修正を行って評価額を求める手法である。
a. 原価法
b. 取引事例比較法
c. 収益還元法
Answer
a
なお、bの取引事例比較法は、条件の近い過去の取引と比較して評価額を求める方法です。cの収益還元法は、不動産を貸したときに生み出す賃貸収入などの収益から評価額を求める方法です。」
不動産登記簿と個人情報
不動産の登記内容は、登記事項証明書の申請すれば だれでも 確認できます。ということは、土地・建物の所有者を誰でも調べることができるということです。これは個人情報的にはどうなのでしょう。
登記事項証明書の内容は、場所や所有者の名前が入っているので、個人情報です。ただし、不動産取引などで所有権を主張するためには、だれに対しても確認できるようにしておく必要があります。でないと、不動産を買おうとする人は、「だれが所有者なのか」「所有者と名乗っている人が本当に所有者なのか」わからず、取引できなくなってしまいます。
そのため、個人情報ではあるものの、だれでも確認できる状況になっています。中には、これを利用して、営業用のチラシを送ってくる業者もありますが。。。